VOL.1 不思議な出会い/2003年10月27日・月曜日



猫がないている。懸命に、誰かに助けを求めるような声で。
その声は、深夜にも、明け方になってもやむことなく続いていた。
眠りにつきながらも、時々戻る意識の中、ずっとその声を聞き、出かけるための準備を整えながらも、その声を意識しないわけにはいかなかった。

「どうしたのだろう?おかあさんとはぐれちゃったのかな。お腹が空いているんだろうか」

そんなことを考えていると、一瞬だけ止んだ声が、それまで以上に大きくなった。

耳を澄ます。
ドアの前? ここはマンションの3階。
「まさかぁ。ここに来られるはずがない」そんなことを想いながら、おそるおそるドアを開ける。

ささっ。
ドアの前、何かが動いた。

小さな猫だ。思った通り、ドアの前でないていたらしい。

外に出て、警戒して逃げようとする猫にそっと声をかけながら近づく。

少し逃げてはこちらを振り返り、近づくと、また少し逃げては振り返る猫。
どうやら目をケガしているようだ。何とも痛々しい。

猫は懸命に、階段を上へと登って行く。
怖がらせることのないよう、なるべく静かに、そっと追いかける。

変わらず、逃げる猫。
最上階についた。
猫にとっては、万事休す。
階段を登りつめてしまい、あとは行き場がなくなってしまったのだ。

ここで逃げられたら、保護するチャンスはなくなるかもしれないと思うと、心臓がドキドキして、一気に緊張が高まる。
そっと、でも素早く手をのばし、やっとの思いでその猫を手の中に抱える。





保護して、その後どうするのかは考えていなかった。
ただ、何とかしなくちゃという思い、それだけ。

明らかに野良猫。
やはり左目は開いていない。左目全体が膿のようなもので覆われ固まっている。

「あらまぁ、かわいそうに…」。

ふと時計を見る。
私は仕事人だ、仕事に行かなければ。

「この猫、どうしよう」混乱した頭で考える。部屋に残して行くわけにもいかず、「どうにでもなれ」とばかり、とりあえず、猫にはそこにあった箱に入ってもらい、会社に連れて行くことに。

事情を説明すれば何とか1日くらいは置いてもらえるだろう。
それとも、この猫ともども追い出されて路頭に迷うだろうか…。





心配したけれど、社長は優しかった。
猫の目を心配し、お腹が空いているのではないかと気を配ってもくれた。

コンビニエンスストアでフードを購入し、お湯で柔らかくして猫の口元へ運ぶ。

…食べない。
猫は箱の中にうずくまったまま「ミョーン、ミョーン」と悲しげになくばかり。

「心配しないで、大丈夫だから」
本当に大丈夫だという根拠もないまま、ただ自分を安心させたくて、そうつぶやいた。





箱の中の小さな猫が気にはなっても仕事は仕事。
病院には仕事が終わってから行くことになる。

まずは仕事を片づけるべく、猛烈な勢いで書類をめくる。




午後。
ごはんはまだ食べてくれない。

もう一度コンビニエンスストアへ。

今度は牛乳だ。お腹を壊してしまうことが心配ではあったけれど、何も口にしないよりはいいのではないかと思ったのだ。

牛乳を人はだ程度に温めて近くに置いてみる。

だめ、飲まない。

「飲んでよ。お腹空いてるでしょ」
指に牛乳をつけて口元へ…。

やった、なめた!
器を顔のそばへ置いてみる。
猫は身をかがめ、小さな舌を出し、ほんの少しだけれど飲んでくれた。





今日、私に与えられた仕事はしっかりこなして、と思ってはいたけれどやはり気が急く。
ごめんなさいと早々に仕事を切り上げ、近くの動物病院へ向かった。

診断の結果はウイルス性鼻気管炎。
さらに健康状態をチェックしてもらうと、体中にノミの糞が付着していることが判明。

当然、背中からお腹、あちこちにノミがウヨウヨいることもわかる。

「うわ」思わず声が出た。
ノミに随分と血を吸われているだろうから、貧血状態かもしれないとのこと。
他には外傷もないことを確認してもらい、まずは安心する。

あまりに酷い状態の猫を見兼ねたのか、看護士さんが缶詰のお魚をお皿に出してくれた。
猫の口にお魚を押し込む。
鼻が詰まっているので食物の匂いが分からず、食べないのだという。

確かに一口押し込まれた後はすごい勢いで食べはじめた。
缶詰の半分以上をたいらげてしまったのである。

よかった。
これで少しは体力も回復するだろう。
ごはんを食べる猫を見守りながら、先生は、この猫が生後2ヶ月位の男の子だということを私に告げた。
「飼うの?」と、先生は言葉を続ける。

「はい」と即答できない私がいた。
仕事の間中留守にせざるをえないこと、私が住んでいる、決して広いとは言えない部屋で、この猫はしあわせに暮らせるのだろうかという想い…、いろいろなことが一気に私の頭の中をめぐる。

しばしの沈黙の後「里親さん募集の紙を貼ってもらえますか?」などとまだまだ固まらない考えを口にしながら、とりあえずは週末にまた診察に来ることを約束。
飲み薬、点眼薬2種をもらって病院をあとにする。

猫を貧血状態にしている、体中についたノミのことがとても気になったけれど、ノミ取りの薬をつけてもらったことだし、この目の具合では、とてもシャンプーするわけにもいかないと、まずはノミのことを忘れる努力をし、とりあえず今夜は、箱の中で寝てもらうことにする。





私は、朝からずっと私に不思議な感覚を与え続けているフリーペーパーを広げた。

「ペット大好き!Tohoku」。
今日発行になったばかりの、人とペットのための情報新聞。

私はこの情報誌の編集に携わる一人だ。 私が担当した記事ではないが「ペットと快適に暮らすためのリフォーム」のコーナーに、梅さんという女性が登場している。
梅さんは、目も開かない状態で捨てられていた猫や骨折した鳥を保護し、一緒に暮らしている女性らしい。とても印象的な記事だった。


不思議な感覚はますます強くなる。


今朝、猫は私の部屋のドアの前にいた。
3階の、5つ並んだドアの中のたったひとつ、私のドアの前に。猫は私に助けを求めにやって来たのだろうか? …もう一度段ボールの中を覗いてみる。
箱のすみに小さくうずくまった背中が呼吸と共に上下に動いているのがわかる。
小さな猫は生きてきた。一生懸命に。

これまでの2ヶ月、どこでどんな風に過ごしてきたのだろう。

夜なきしないことを願い、猫の行く先をどうやって探そうなどと思いつつ布団にもぐりこむ。

眠りに落ちる寸前、あの記事の梅さんなら迷わず一緒に暮らすだろうな、という思いが頭のすみをかすめた。
猫に情がうつることを恐れ、名を付けず、今日一日、あえて「猫ちゃん」と呼びかけていた私の胸に「うめちゃん」という、彼の新しい名前が浮かんでは消えた。

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